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□『F』
まるで夢のようだと、少女は思う。こんなにも血が騒ぎ、鼓動が高まり、楽しいと感じられるのは生まれて初めてだった。
約五百年間、彼女は暗く冷たい屋敷の地下で暮らしてきた。それでも少女は孤独を感じた事も、退屈を覚えた事も無かった。
地上から姉達の話し声が聞こえていたし、そもそも彼女は『孤独』や『退屈』がどういったものなのかすら、良く知らなかったのだ。
それでも、人間が食料で、そして怖ろしい存在なのだという事は知っていた。
そう、聞こえてきていたのだ。数多の武器と共に襲い掛かってくる人間達の声と、その襲撃を迎え撃つ姉の声を。
姉は強く、吸血鬼という存在がどれほど強大なのかを教えてくれた。けれど、対する人間達は臆する事無く、何度でも何度でも姉を討伐せんと現れる。
人間というものをケーキや紅茶などの、食事という形でしか見た事の無い少女は、いつしかその存在に興味を抱くようになった。
そして、最愛なる姉が初めて人間に倒された時、少女の中で決定的な変化が起こった。それは約五百年もの間変わらなかった、心情の変化。
『外に出て、人間に逢ってみたい』
部屋から出るのは簡単だった。頑丈な扉を指先一つで押し開けて、紅く、そして予想以上に長く広い廊下を飛んでいく。
けれど、突如振り出した雨により外に出る事は叶わなくなった。それなのに、何という幸運か、姉を倒した人間が二人揃って屋敷にやって来ていた。
降って湧いた幸運に喜びながら、少女は二人の人間と相対し――会話の流れの中で取り出したのは、唯一の宝物である金色のコイン。
人命も買えない価値のそれは、しかし対価として払われた。
そうして始まる、再開不能の一発勝負。
「貴女達が、コンテニュー出来ないのさ!」
しかし、少女の予想以上に人間達の力は強かった。仕掛けた罠は呆気なく抜け出され、魔杖の一撃は空を掻いてばかり。
どうやっても二人に当たる事は無く、けれどそれが楽しくて仕方が無い。
それは弾幕ごっこが、というよりも、生まれて初めて発揮する、自分自身の力への愉楽の方が大きかった。
少女は思う。吸血鬼の力とは、こんなにも素晴らしいものなのか、と。
そうして、『本気』というものすら知らなかった少女が目覚め、幻想郷の歴史は進んでいく。
約束されたその日、少女がその能力を使い、獅子の名を持つ隕石を破壊する『運命』へと。
end
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□紫